営業部門から設計部門へ、或いは設計部門から製造部門へ引き継がれる情報(文書や口頭)が少ない組織があります。注文書や設計図面などの必須といえる情報はあるのですが、お客様の望むイメージや人柄や好み、競合との差異などを含む受注までの経緯、或いは製造時に注意して欲しい事や小さな心配事などの「その他の情報」が少ないのです。それも記録として残る文書が少ないのです。
そのような組織の特徴として最も多いのは、部門間のコミュニケーションが悪く表面的な情報しか引き継がれず、結果として何度も部門間で問い合わせたり、時には不良品が発生したりする組織です。この悪い特徴は、ある意味「納得」するのですが、全く逆の特徴を持つ場合も少なからずあります。
それは、部門間のコミュニケーションが非常に良好で、且つ、営業・設計・製造の枠を超えて「一体」となって業務をこなしている組織です。
「引き継ぎ時の情報が少ないですね」と聞くと、「設計者も営業打ち合わせに同行することが多いですし、設計者も製造現場によく行きますので、“引き継ぎ”という感覚はあまり持っていません」などと返ってくるのです。
インタビューでの感触からもそのことが分かれば「素晴らしい!」と感じ、賛辞も送ります。
しかし!第三者の視点からはリスクも感じます。
今現在の「人」で成り立っている間はいいのですが、退職したり、新たに加わったり、管理者が変わったりと「人」に変化が起きることを想定すると「安定した仕事の仕組みと言えるでしょうか?」或いは「“区切り”としての引き継ぎ、その記録としてのある程度の“文書”は必要ないでしょうか?」と問い掛けたくなるのです。
「創業以来の社風ですから」、「長年かけて培ってきた雰囲気なのです」と、気に留めていただけないことも多いのですが、「是非、是非、今の状況が続いて欲しい」と心から願いながら懸念を伝えることも審査員の役割の一つだと私は思うのです。